「つながる地域のものづくり」第6回 uun石黒幹朗氏【あるがままの姿を“整える”】

つながる地域のものづくり第6回uun石黒氏

地元を拠点とし、ものづくりに取り組む人々にスポットを当てる本企画。
日本が誇る技術を継承する職人、古き良き伝統を紡ぐ工房、地元を盛り上げる取り組みに挑戦する企業など、地域に根差してものづくりと向き合う匠たちを紹介していきます。

記事の最後には、“匠が惚れる匠”として、次回の出演者へバトンをつないでもらいます。

第6回は、uunの石黒幹朗氏。地方移住をきっかけにものづくりを始めたという石黒さん。皮や落ち葉、石など自然のあるがままの姿を“整える”ものづくりの楽しさを語ってもらいました。

移住をきっかけにサラリーマンからものづくりの世界へ

僕は美短大の出身なのですが、当時はものづくりを仕事にしたいと思って勉強していたわけではなく、卒業後はサラリーマンをしていたんです。ものづくり自体に興味はありましたが、絵を描いたり、写真を撮ったりするぐらいでした。妻とユニットで活動している「logsee」は、2015年に兵庫県の西宮市から京都の船井郡京丹波町に移住したことをきっかけに立ち上げたブランドです。

革製品に触れることになったのは、妻である石黒由枝が神戸にあるフルオーダーの鞄屋さんで修行をさせていただいていたことがきっかけでした。僕も少しずつ技術を教えていただいていたので、移住後に思い切って会社を辞めて、妻と合流しました。

「革」はもともとと命ある「皮」で、どんなに高級なものも、等しく命があったものです。僕は、その命だったことを肌感覚として知りたいと思っていました。

今、僕が多く扱っているのは鹿の皮です。田舎って鹿がたくさんいるんですね。そこで、猟師さんに同行させていただき、皮を分けていただくようになりました。命あるところから素材をいただいているという実感を作品に活かしたいという思いから今の作風になりました。それから「uun」としても単独で活動しています。

命あった「皮」から生まれる美しさを“整える”

猟師さんからいただく皮は、野生のままの状態です。洗浄し、血肉を除き、毛を抜き、開いた状態にして乾かすんですが、その状態の時の皮は生成りの色をしています。そして、まだ濡れた状態の時にひっぱって乾かすとプラスチックのように固くなり透けるんです。初めてそれを見た時、僕は「なんてきれいなんだろう」と魅せられてしまいました。

それから、野生動物なのでどこかにぶつけた跡や、何かに噛まれた跡などが、そのまま皮にも刻まれているんですね。最高級のレザーは、職人さんの技術がつめこまれていて美しいものですが、こういった森の中で生きていた証は省かれてしまいます。僕は道端の花や、自然が生んだ葉の形などに心惹かれるので、加工するのではなくありのままの自然な状態を活かし、作品として表現したかった。そのためには、あまり作り込むより、整えるといった意識で取り組んだ方が素材の良さを活かせると思ったんです。

動物って、夏と冬で毛が生え変わりますよね。実は、皮膚にも同じように季節の変化が現れるんですよ。猟師さんに教えていただいたんですが、鹿の 背中の鹿の子模様は、森の中で木漏れ日に擬態するための模様なんだそうです。生え変わりの季節にはその鹿の子模様が皮にも見て取れて、季節によって色の濃さが違ったりするんです。皮を通じて季節を感じることができるんだということにも、おもしろさを感じました。

皮の染色は、偶然が生み出す美しさ

皮を染色する場合もあるんですが、僕は染め物の技術者ではないのでいつも実験です。ある時、赤っぽい紫色を出したいと思い、紫蘇の抽出液を使ってみたんです。腐らないように先にミョウバンに浸けた皮をその液につけてみたら、エメラルドグリーンのようなきれいな色に変化したんです。別の機会に、違う手順で同じ液をつけたら、今度は茶色になりました。

鹿のタンパクに反応したのか、毛を抜くためにつけた石灰水のアルカリに反応したのか、順序が違うだけで仕上がる色が変わる。要するに化学なんだというところに、おもしろさを感じました。

もっと突き詰めて化学を学べば、求めているものに早く近づけると思います。でも、僕の興味は実験の中で偶然に生まれる美しさ、そのサプライズ感にあります。染色のプロではなからこその表現で、その偶然もそのまま作品にしています。

シンプルな造形で面白い表現を生み出す

鹿の皮は素材としてまだまだ未知なものだと思いますが、イベントなどで鹿皮に興味をもってくださる方に出会うことは、とても嬉しいです。僕が作るものは、造形としてはとてもシンプルなんですが、とても良い“整え”ができていると思っているんです。

例えば、「線」と呼んでいる作品。鹿革をねじり、端と端を引っ張り伸ばして棒状にして作りました。土台は、森からいただいた木を輪切りにして丸く削ったものに、落ち葉を細かく砕いて膠(にかわ)でひっつけて玉状にして作りました。置き方や湿度などに影響を受ける皮の特性で、伸ばした棒状の部分が自然と湾曲してくるんです。鉄や木の棒ではできない表現が生まれました。

もう一つは、複数の石を皮でぎゅっと巻いて、縄で縛った作品です。皮を石にまとわせることで、もう一度皮膚として表現できないかというアイデアから生まれました。つるっとして見えますが、プラスチックなどにはない少ししっとりとした異質な触感が宿るし、ダイヤモンドのような特別な石ではないものも、人の意思で特別な石にできるのがおもしろいなと思っています。

トライアンドエラーを繰り返しながら、思いつきを造形に

自然であることを否定や拒絶するのではなく、すべての出来事を受け入れ、向き合って、どう動くのか。川の流れも、石があることで自然と流れが変わる。人間の社会の中で、そうあり続けることはすごく難しいと思うんですが、極力そうやって生きて、作品作りに活かせたらいいなと思っています。

移住して7年、ものづくりだけではない地域との関わりもできました。思いつくことで、まだ実現させていない造形もたくさんあります。猟師さんからいただく一枚一枚を大事に、作品を作っていきたいです。
これからも、ものづくりの中でトライアンドエラーを繰り返しながら、自分がわくわくできるものを作り続けて、それを多くの方に伝えていけたら嬉しいと思っています。

uun石黒氏

 

■Instagram:https://www.instagram.com/uun_logsee/

■水犀
7/23~7/31
https://mizusai.jp
https://www.instagram.com/mizusai_/

■TRACING THE ROOTS 旅と手しごと(logseeとして出展)
10/11~10/13
https://motherdictionary.com/roots2021/
https://www.instagram.com/tracing_the_roots/

石黒幹朗が惚れこむ花と絵と造形の匠

ハナノエンの野田幸江氏
滋賀で家業のお花屋さんの傍ら、ショップの生け込みをされたり、独創的なオブジェを作られている野田さん。
初めて野田さんの作品を見た時、造形はそんなに大きなものではなかったですが、ギュっと固まった塊からは物凄い情報量とエネルギーを感じました。
優雅で可憐なお花や植物の扱いも勿論素敵ですが、田んぼや道端に在る、ある意味地味にもうつる植物を扱い膨大な手間暇をかけて作られる造形物も素敵です。
絵描きでもある野田さん。
最近絵の軸と造形の軸が重なりつつあると聞いてから見た作品は、まさに野田さんが日々眺める景色の凝縮体のようでした。

<第7回 ハナノエンの野田幸江さんへ続く>

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