「つながる地域のものづくり」第5回 相良育弥氏【茅葺きはサスティナブルな住まい方】

「つながる地域のものづくり」第5回 相良育弥氏【日本の茅葺きは、あるべき住まい方の形】

地元を拠点とし、ものづくりに取り組む人々にスポットを当てる本企画。
日本が誇る技術を継承する職人、古き良き伝統を紡ぐ工房、地元を盛り上げる取り組みに挑戦する企業など、地域に根差してものづくりと向き合う匠たちを紹介していきます。

記事の最後には、“匠が惚れる匠”として、次回の出演者へバトンをつないでもらいます。

第5回は、株式会社くさかんむりの代表で茅葺職人の相良育弥氏。お百姓さんを目指していたはずが、親方の一言で茅葺きの世界に足を踏み入れたという相良さん。茅葺きを通して見る日本、そして世界について語ってくれました。

「茅葺きやったらいいやん」アルバイターから職人の道へ

僕の実家は田舎だったため田畑が身近にありました。そこで米や野菜を育てていた影響もあって、20代初めの頃はお百姓さんになりたかったんです。

ですが、農閑期の冬に茅葺職人の親方の元でアルバイトをしていたとき、現場で親方に「お前何になりたいねん」って聞かれたんです。それをきっかけに、この道を目指すことになりました。

「つながる地域のものづくり」第5回 相良育弥氏【茅葺きはサスティナブルな住まい方】

当時の僕は「百の技を持った人、つまりお百姓さんになりたい。でも、まだ技がないので三姓くらいなんです」と話したら、親方が一言「じゃあ茅葺きやったらいいやん」と。その理由を聞いたら、「100の技のうち、10くらいは茅葺きの中にある。まだ若いし茅葺きの修行をしてみないか」と言ってくれました。

修行期間は5年。当初は、修業が終わったらまた米を作ったりしたいなと思っていました。でも修行を終えた頃に、跡を継ぐ若手職人がいない業界の問題を知ったんです。米作は年を取ってからでもできるということもあって、茅葺職人の道に進むことを決めました。

産業廃棄物が出ないサスティナビリティな茅葺き

茅葺きって草と木と竹でできているので、最後は全部土に還るんですよ。これは茅葺きの魅力の一つ。茅葺き屋根の施工は建築の括りですが、ほとんど産業廃棄物が出ないんです。ちゃんと適切な解体とか処理をすれば、もと来た自然の中に返すことができる。

最近、SDGs(エス・ディー・ジーズ)という言葉を多く耳にしますが、そういったことが話題になる前から茅葺きは持続可能であったし、環境に対して負荷をかけないものでした。茅葺きは古くから伝わってきた暮らしの知恵なので、現代の中で再評価されるのは嬉しいことですが、それをきっかけに茅葺きはもっと深い世界で、魅力があるということを知ってもらうように心がけています。

例えば茅葺きの民家は、蒸し暑い夏をいかに快適に過ごすかに焦点を当てて作られているので、夏でもエアコンがいらないほど。イメージとしては、日向で麦わら帽子をかぶっている感じが近いですかね。

50~60センチある茅葺きの厚みが、木陰の心地よさのような涼しさをもたらしてくれます。電気を使わなくても快適に過ごせるエシカルな暮らしは、今の世の中の流れにぴったり合致しているのではないでしょうか?

“古き良き”を残して次の時代にアップデート

実はヨーロッパでも茅葺きは盛んで、ヨーロッパ各国の茅葺き民家の棟数と茅葺職人の数の比率は、日本と比べると約10倍もの差があるんです。日本の現役職人が10人弟子を取って、やっとヨーロッパのレベル。そういう意味でも、積極的に若手の育成は行っています。

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日本独自のイメージが強い茅葺きですが、もともと草が生えている地域には茅葺きが伝統的にあり、それはヨーロッパも例外ではありません。オランダでは茅葺きが再評価され、30年前から社会実験を繰り返し、法の緩和措置を取り、現在では条件付きで茅葺き屋根の新築建設を許可しています。社会的な取り組みに関して言えば日本はすごく遅れているんです。

というのも、現在の日本の建築基準法では、茅葺き屋根の建物を作ることは原則禁止されています。また、一般層に茅葺きがまだ浸透していないので、新築しようという発想にもなりにくい。ですから、基本的に茅葺職人の作業の中心は既存の茅葺き屋根の修繕なんです。

でもこれまで皆さんに知っていただくため、地道に活動を行ってきた甲斐もあり、ここ数年は新築したいというお問い合わせも増えてきました。とはいえ、まだまだ普及活動は必要だと感じています。

さらに、遅れている代わりに古き良き物が残っているので、そういったものを失くさないように、それでいて次の時代に合わせてアップデートするにはどうしたらいいかを常に考えながら仕事をしています。

茅葺きは身近であるべき住まい方の形

戦前くらいまでは、日本の民家の屋根に茅葺きが使われていましたが、今は1%以下。現代の日本では、茅葺きは昔の様式というイメージを持たれていて、「日常とは違うところにあるもの」という認識が根深いです。

そういうイメージの払拭から始めていかないと、日本での茅葺きの普及は難しいと感じています。僕としては、茅葺きはもっとみんなにとって身近にあるべき住まいの形だと考えているので、茅葺きのすばらしさにもう一度目を向けてもらえたら嬉しいですね。

「つながる地域のものづくり」第5回 相良育弥氏【茅葺きはサスティナブルな住まい方】

世界が目指す持続可能な暮らしへ

僕自身の今の目標は、より多くの人に茅葺きを知ってもらうこと。だからこういったメディアへの露出はもちろん、子どもたちへのワークショップや若手の育成に力を入れていきたいと思っています。

子ども向けのワークショップにはもともと積極的に取り組んでいて、自然や文化を体感できるとご好評いただいているのですが、実は、それが次に繋がる場合もあるんです。10年くらい前にワークショップに参加した女の子が、今うちにアルバイトで来てくれているんですよ。もちろん全員が全員というわけではありませんが、ツボにはまった子が茅葺きに関わって、そこから弟子、ひいては職人が生まれてくる。

茅葺きは古いものに見えて実はサスティナブルな、未来から今を見ているような存在。世界が目指している方向に寄り添うような茅葺きの魅力に、一人でも多くの人が気づいてくれたらいいな、と思っています。

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相良育弥が惚れこむ皮と革の匠

uunの石黒幹朗氏

京都の里山に暮らしながら、そこで誰もが見向きもしなかった鹿の皮や落ち葉を用いて、誰も見た事が無かったような作品を作り出している石黒さん。彼の作品は自然と人のちょうど真ん中に立っているようで、自然を奪いすぎず、自然に阿りもしない作風は、今の世の中に何が大切かを問いかけているようです。

<第6回 uunの石黒幹朗さんへ続く>

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